電磁波が健康に影響を与える仕組み

突然変異

 

続いて、活性酸素によるDNA損傷が、どのようにして突然変異を引き起こすのか説明します。

突然変異には塩基置換や塩基対欠失といった小規模のものから、染色体の構造異常、異数性といった大規模なものまで、様々な種類が存在します。

目次All_Pages

3 突然変異ページ3

塩基置換

DNA損傷のうち、塩基酸化と塩基喪失 (脱塩基) がDNA合成期まで持ち込まれると、塩基置換と呼ばれる突然変異が発生します。

塩基置換とは突然変異の一種で、DNAの塩基の配列のうち、一個の塩基が別の塩基で置き換わってしまうものを言います。

以下の例では、グアニン・シトシンのペアがチミン・アデニンのペアに置き換わっています。

塩基置換

DNA複製の手順

ここでDNA複製の手順について簡単に説明します。

  • DNAの二重鎖をほどく
  • 元DNA鎖を鋳型にして、ペアとなる塩基を新DNA鎖に追加

グアニンとシトシン、チミンとアデニンは必ずペアになるので、元DNAの塩基がわかれば、新DNAにどの塩基を追加すればいいかもわかります。

DNA複製の手順

塩基酸化からの塩基置換

DNAの複製中に酸化した塩基に遭遇すると、塩基置換が発生します。

グアニンが酸化した状態でDNAが複製されると、アデニンが間違って付与されてしまいます。もう一度DNAが複製されると、アデニンに対してチミンが追加されます。(Klaunig et al. 2009)

酸化塩基からの塩基置換

つまり、グアニン・シトシンの塩基のペアが、チミン・アデニンの塩基のペアに置換されるという、突然変異が発生します。(Klaunig et al. 2009)

塩基喪失からの塩基置換

DNA複製時に、塩基が存在しない場合、任意の塩基が、特にアデニンが好んで追加されてしまいます。もう一度DNAが複製されると、アデニンに対してチミンが追加されます。 (Talpaert-Borlè 1987)

脱塩基からの塩基置換

つまり、任意の塩基のペアが、チミン・アデニンのペアに置換されるという突然変異が発生します。

塩基置換

複製ストレス

DNA損傷のうち、一重鎖切断がDNA合成期まで持ち込まれると、複製ストレスが発生します。

複製ストレスとは、活性酸素や紫外線などの要因によって、DNA複製が阻害されて停止する現象のことを言います。

一重鎖切断からの複製ストレス

DNA複製時に一重鎖切断に遭遇すると、複製はそこで停止し、複製ストレスが発生します(Gelot et al. 2015)。

一重鎖切断からの複製ストレス

複製ストレスによって、さらに大規模な突然変異である染色体の構造異常と、染色体の異数性が引き起こされます。

これについては次のページで説明します。

染色体の構造異常

DNA損傷である二重鎖切断が発生すると、大規模な突然変異である染色体の構造異常が引き起こされます。

染色体とは何か?

DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付いて収納されています。ヒストンがさらにらせんを巻いて折りたたまれ、クロマチンと呼ばれる構造体になります。

これらのDNAとタンパク質の複合体のことを、染色体と呼びます。

染色体の構造
(Fyodorov et al. 2017から引用・加筆)

染色体は通常、細胞の細胞核内にひものような状態で存在しています。

一方、細胞分裂期においては、DNA含めて複製された染色体が、棒状の構造体へと凝集します。

このような構造は、複製した染色体を均等に分配するために必要になります。

染色体の分配

細胞分裂期には、中心体と呼ばれる器官が、細胞の両極に移動してきます。

また複製された染色体の中央の狭い領域には、動原体と呼ばれる構造体が出現します。この動原体は、微小管とよばれる細胞骨格を通じて、中心体と接続されます。

この染色体を2つの細胞に分離するための構造全体のことを指して、紡錘体と呼びます。

そして染色体は、細胞の両極にある中心体へと引き寄せられます。これにより染色体が2つの細胞に分配されます。

二重鎖切断からの染色体の構造異常

二重鎖切断も他の損傷と同様に修復が試みられますが、この時の修復ミスにより、染色体の構造異常 (染色体再配列) とよばれる大規模な突然変異が発生します。(Shibata and Jeggo 2020)

元画像

二重鎖切断の修復ミスによる染色体の構造異常
(Shibata and Jeggo 2020から引用・改変)

  1. 二重鎖切断により、欠失、逆位、転座といった染色体の構造異常が発生する。(上段)
  2. 切断箇所によっては、無動原体や二動原体といった、細胞にとって致命的な染色体が発生する。(下段)

欠失

DNAの二重鎖が切断され、結合せずに残ってしまったものです。

あるいは、DNA二重鎖が二か所切断され、誤って結合してしまったものです。

いずれの場合も染色体本体とは別に、染色体の断片が現れます。

逆位

DNA二重鎖が二か所切断され、逆さまに結合してしまったものです。

転座

2つのDNAにおいて二重鎖が切断され、染色体の断片が入れ替わってしまったものです。

無動原体と二動原体

二重鎖切断の発生個所によっては、動原体を持たない無動原体や、動原体を二つもった、二動原体といった染色体が現れます。

構造異常の悪化

染色体が構造異常が起きると、細胞分裂期に微小核や染色体橋といった問題がさらに発生し、染色体の構造異常が悪化します。

欠失による構造異常の悪化

欠失によって発生する染色体の断片は、動原体をもちません。したがって細胞分裂時にどちらの側にも引き寄せられず、取り残されます。そして微小核と呼ばれる、 小さな細胞核を形成します。(Norppa 2003)

染色体断片 (欠失) からの微小核

2012年のアメリカの研究は、新たに発生した微小核は欠陥のあるDNA複製を受け、その結果、微小核内の染色体が断片化され、この断片化された染色体が最終的にかなりの頻度で娘細胞核に再組み込みされるということを発見しました。(Crasta et al. 2012)

したがって微小核によって染色体の構造異常が悪化します。

無動原体による構造異常の悪化

無動原体は染色体の断片と同様、動原体をもちません。したがって、細胞分裂時にどちらの側にも引き寄せられずに取り残され、微小核を形成します。(Norppa 2003)

無動原体から微小核

先述のとおり、微小核によって染色体の構造異常が悪化します。

二動原体による構造異常の悪化

一方、二動原体は、2つの動原体をもつため、細胞分裂時に細胞の両側から引き寄せられてしまい、これにより細胞分裂が停止します。

この細胞分裂が停止した状態のことを染色体橋と呼びます。

染色体橋は二動原体の切断によって解消されます。これにより断片化した染色体は、しばしば別の染色体と融合し、新たな二動原体を形成することさえあります。(Gascoigne and Cheeseman 2013)

このような染色体損傷の連鎖過程は「切断-融合-架橋サイクル」と呼ばれ、がんのイニシエーションに強く関与しています。(Gascoigne and Cheeseman 2013)

塩基対欠失

二重鎖切断の修復ミスにより染色体の構造異常が発生しますが、それだけでなく、その不完全な修復によって、塩基対欠失と呼ばれる突然変異が発生します。

ここで塩基対欠失とは、数塩基対の喪失を意味する、小規模な欠失のことをさしており、前述した染色体の大きな領域にまたがる、大規模な欠失とは区別されます。

二重鎖切断からの塩基対の欠失

二重鎖切断の修復方法にはいくつか存在します。完全な修復を行うものもありますが、不完全な修復を行うものもあり、こちらは突然変異につながります。(Gelot et al. 2015)

元画像

二重鎖切断の修復方法
(Popp et al. 2017から引用・加筆)

  1. 相同組み換え修復は無傷の同一あるいは相同なDNA配列を使用する、間違いのない正確な修復方法。(左)
  2. 非相同末端結合はDNA切断面を直接結合する修復方法で、切断箇所で数塩基対の欠失が起きえる。(中)
  3. Alternative end-joining(A-EJ)は頻繁に塩基対の欠失を起こす問題のある修復方法 (右)

通常、DNA合成期以降では相同組み換え修復が、それ以外の場合は非相同末端結合が選択されますが、DNA損傷が多発するとA-EJが代わりに使用されると言われています。(Gelot et al. 2015)

つまり正しいDNA同士を接合したとしても、二重鎖切断の修復方法によっては塩基対の欠失が伴い、突然変異が発生します。

記事の最初に戻る

石塚 拓磨

石塚 拓磨

北海道函館市在住。大学では情報工学を専攻し、エンジニアとして10年以上の経験があります。
このサイトを通じて少しでも多くの人が電磁波の危険性について気づいていただければ幸いです。

health

ja

翻訳中