遠隔マインドコントロールの方法

 

電磁波による遠隔マインドコントロールと聞くと、当然ながらSFや陰謀論だと片付けてしまうかもしれません。

しかし、脳操作に関する400件以上の膨大な文献は、その実現がおそらく可能であることを強く示しています。

人間や動物の脳深部に電極を埋め込んで電気刺激を与えると、刺激部位に応じて極めて多彩な感情や行動の変化を引き起こすことができます。

確認されている反応には以下のようなものがあります。

扁桃体:激怒、攻撃、恐怖、逃走、自殺念慮、快楽、欲求、恋愛感情、摂食、捕食、飲水、交尾、排卵、子宮収縮 (さらに出産・流産)、記憶喪失、不快感、生理現象 (くしゃみ、嘔吐、排尿など)

視床下部:激怒、攻撃、恐怖、逃走、パニック発作、自殺念慮、欲求、摂食、捕食、拒食、飲水、勃起、交尾、排卵、子宮収縮 、無力症 (※)、生理現象 (くしゃみ、嘔吐、排尿など)

水道周囲灰白質:激怒、攻撃、恐怖、逃走、パニック発作、欲求、捕食、交尾、鎮痛

中隔野:性的快楽、性欲、オーガズム、摂食、勃起、交尾、攻撃性抑制、鎮痛

内側前脳束:欲求、軽躁、摂食、射精、交尾

腹側被蓋野:欲求、摂食、飲水、交尾

側坐核:快楽、欲求、軽躁、摂食、笑い、恐怖、パニック発作、自殺念慮

内側視索前野:勃起、交尾、排卵

被殻:勃起、交尾、自慰行為

尾状核:攻撃性抑制、運動停止、記憶喪失、睡眠、無力症 (※)、拒食

前脳基底部:睡眠

前障:意識障害

前帯状皮質:笑い、恐怖、運動停止、不快感

海馬:恐怖、記憶喪失、不快感

島皮質:痛み、不快感

視床:痛み、恐怖、性的快楽、性欲、オーガズム、運動停止、睡眠

下垂体:排卵、子宮収縮

脳幹:身体操作、心停止、呼吸停止、生理現象 (くしゃみ、嘔吐、排尿など)

筋緊張の喪失を伴う不活性な状態。

これは悪用される恐れがあり、実際1970年代には脳の電気刺激は、政府が国民をマインドコントロールするための手法であるとして激しく糾弾されました。

これが深刻な議論であったことは、1973年に米国議会がそのような技術を使った大衆操作について懸念を表明する一方で、米軍が当時この分野の著名な研究者に資金援助を行っていたことからも明らかでした。

この黎明期のマインドコントロールの疑惑について、詳しくは10ページ目をご覧ください。

電極無しに脳の特定部位の刺激が実現できれば、離れたところから人間の感情や行動を意のままに操る、「遠隔マインドコントロール」が達成されます。

これは実は、米国防総省の国防高等研究計画局 (DARPA) がマイクロ波ビームの集束によって実現しようとしてきたことでもあります。

一般に公開されている科学文献を調べるだけでも、現代の技術は電極が無くとも、電磁波や超音波などを利用して遠隔からの脳の特定部位の刺激が可能な域に達していることがわかります。

アメリカの政府機関は長年マインドコントロールに関心を示し、マイクロ波が行動に与える影響を調べる多数の研究を行ってきました。

赤十字国際委員会の上級科学・政策顧問は、このような研究は非致死性兵器の開発という旗印の下で行われていると指摘し、政府がマイクロ波を使って遠隔マインドコントロールしているという陰謀論が現実になりつつあると警告しました。

この記事の1ページ目では、遠隔から神経系を操作する様々な方法を説明します。

2ページ目以降は、脳深部の直接的な電気刺激により、激怒・恐怖・快楽・欲求・抑制などの感情を誘発し、また四肢の運動や心停止や呼吸停止など、自在に身体を操作できることを示した多数の研究を紹介します。

脳をコンピュータと接続して身体を操作する、ラジコンカーのように無線で遠隔操作する、といった動物を生体ロボット化する取り組みも進められており、このような技術が人間に悪用された時の惨禍は甚大なものになると思われます。

遠隔神経操作

 

神経系を操作する古典的な手法は、埋め込み電極による直接的な電気刺激です。

しかし現在は、電磁波、電流、超音波などを用いて、電極を埋め込まずに神経系を間接的に操作する、洗練された新しい方法が可能になっています。

ここでは主に電磁波を扱いますが、電流や超音波についても言及します。

実験的に、ニューロンを直接発火させるほどのエネルギーを持たない微弱な電磁波や電流でも、その周波数を脳の生理的な振動に合わせる「脳同調」と呼ばれるプロセスを通じて、ニューロンを活性化できることが確認されています。

さらに、はっきりとした行動変化を引き起こすためには、脳の局所的な刺激が不可欠です。

近年、「時間干渉刺激 (TI刺激)」と呼ばれる技術が開発されました。これは、周波数がわずかに異なる2つの電流を頭部に加えることで、その交差点に極低周波の合成波を形成し、脳同調によって脳深部の特定部位を活性化するものです。

ビームフォーミングの技術を活用し、これは電磁波を使った方法にまで拡大されています。

ここで重要な問題は、多くの国で非致死性兵器や指向性エネルギー兵器が開発されていることです。いくつかの情報源は、これらの兵器の中には人間の脳機能へ干渉することを目的としたものもあること、すなわちマインドコントロール兵器の存在を示唆しています。

目次All_Pages

電磁パルス (TMS)

磁気コイルに短時間の電流を流すことで電磁パルス (磁気パルス) を発生させ、電磁誘導によって発生する電流で脳の特定領域のニューロンを活性化することができます。

これは経頭蓋磁気刺激 (Transcranial Magnetic Stimulation : TMS) と呼ばれます。

コイルにはさまざまな形があり、円形のコイルは比較的強力です。8の字型のコイルはより焦点が絞られており、2つのコイルの交点において最大出力を生成します。(Hallett 2007)

8の字型のコイルでより焦点性の高い刺激が可能になる。

TMSは脳の3-4 cm程度の深さまで到達できるものと考えられています。(Terao and Ugawa 2002)

従ってTMSは通常、脳表面の新皮質領域の刺激に限定されます。

TMSでは脳活動の促進と抑制の双方を引き起こすことができます。(Silvanto and Cattaneo 2017)

一般的には低強度では促進、高強度では抑制が生じますが、これは脳の状態などにも依存します。

TMSの抑制効果により、特定の脳領域の活動を抑制して、その領域固有の脳機能を妨害することができます。

例えば側頭葉へTMSの電磁パルスを加えると発話が妨害され、後頭葉へ加えると視覚が妨害され、前頭葉へ加えると短期記憶が妨害されることが知られています。(Devlin and Watkins 2006, de Graaf et al. 2014, Balconi 2013)

またTMSの促進効果により、運動野の特定部位を活性化し、特定の体部位の筋肉群を収縮させることができます。(Sondergaard et al. 2021)

運動野へのTMSによる筋収縮を実演するYouTubeの動画

このような効果から、TMSは脳機能を調べる研究用のツールとして利用が広がっています。

TMSは単発の電磁パルスを生成しますが、これを周期的に生成するようにしたものを反復TMSと言います。

反復TMSはデルタ・シータ帯域 (0.5~7 Hz) からガンマ帯域 (約100 Hz) までの、脳の生理的な振動範囲をカバーしています。(Thut et al. 2011)

これにより、脳同調として知られる現象である、脳の振動に外部から干渉して脳活動に影響を与えることが可能になります。

脳振動と脳同調

脳振動

脳の振動は、埋め込み電極から得られる局所的なものから、脳波として現れる大域的なものまで、脳の様々なレベルに及んでみられます。

単一のニューロンは低頻度で不規則に発火していますが、ネットワークを形成した集団としては振動特性をもつようになります。(Brunel and Hakim 1999)

このような振動によって脳に広く分布するニューロン集団が同期し、さまざまな脳領域を統合するのに役立つと考えられています。(Knyazev 2007)

脳振動の分類

人間の脳波の周波数帯は、デルタ (0.5–3.5 Hz)、シータ (4–7 Hz)、アルファ (8–12 Hz)、ベータ (13–30 Hz)、ガンマ (>30 Hz)に分けられます。(Engel and Fries 2010)

これらの周波数帯は何らかの機能を持っており、特定の処理に関連付けられると言われています。(Knyazev 2007)

デルタ、シータ、アルファの振動は、比較的広い領域にまたがる、大域的な脳波です。

ベータおよびガンマの振動は局所的な脳波で、より限定された地形領域に分布しています

デルタ波 (0.5–3.5 Hz)

デルタ波は、欲求に関与しています。(Knyazev 2007)

本能を司ると言われる、脳幹でデルタ波が生成されます。

また、欲求に関して重要な脳領域である腹側被蓋野、側坐核、内側前頭皮質でもデルタ波が生成されます。

基本的な欲求を満たす必要があるとき、デルタ波は増加する傾向があります。

例えば空腹時や性的興奮の際にデルタ波は増幅します。

人間がオーガズムに達するとき、中隔野で1.5~2 Hzのデルタ波が出現しました。(HEATH 1972)

シータ波 (4–7 Hz)

シータ波は、感情と記憶に関与しています。(Knyazev 2007)

感情と記憶を司ると言われる、大脳辺縁系でシータ波が生成されます。

例えば、マウスが恐怖で固まっている時、海馬と扁桃体がシータ帯域で振動しました。

また、人間が恐怖感を感じている時、扁桃体と内側前頭皮質でシータ波が増加しました。(Chen et al. 2021)

病的に攻撃的な患者では、視床下部においてシータ帯域の増加が見られました。(Rosa et al. 2012)

アルファ波 (8–12 Hz)

アルファ波は、抑制に関与しています。(Knyazev 2007)

理性を司ると言われる、大脳新皮質でアルファ波が生成されます。

アルファ波の増加によって不要な気を散らす処理が抑制され、目の前の作業に注意を集中できるようになります。

従ってアルファ波の増加は認知能力の向上と相関します。

ベータ波 (13–30 Hz)、ガンマ波 (>30 Hz)

ベータ波は感覚と運動に関与していますが、その機能に対する理解はあまり進んでいません。(Engel and Fries 2010)

ガンマ波は知覚処理、注意、覚醒、物体認識、言語知覚など、多くの認知機能に伴って出現することが知られています。(Herrmann et al. 2004)

いくつかの研究が、怒りや攻撃行動において、大脳辺縁系の領域がベータ波とガンマ波を生成することを示しています。

患者が感情的に振る舞っている時、特に怒っているとき、海馬から12~20 Hz、扁桃体から18~35 Hzという、高振幅のベータ波およびガンマ波が一貫して出現しました。(Heath 1964, Heath 1992)

病的に攻撃的な患者では、視床下部においてアルファ波の減少とベータ波の増加が見られました。(Rosa et al. 2012)

マウスの内側前頭前皮質、扁桃体、視床下部の電気活動を調べた研究では、ベータ波とガンマ波が攻撃行動に関与していることが示されました。(Yang et al. 2022)

脳同調

脳の振動は、外部からの力によって駆動されることがあります。(Thut et al. 2011)

この力が周期的なものであれば、自然な脳の振動は外部の振動に同期するようになります。これを脳同調といいます。

外部振動を用いた脳同調で行動変化を引き起こすためのポイントは以下の2点です。

  • 脳の特定部位を標的とする。
  • 外部振動が標的部位の機能周波数に合致する。

これにより、脳の直接的な電気刺激でみられるような、はっきりとした行動変化を、電磁波などの外部振動によっても誘発することができるようになります。

最近開発された、2つの波の交差点にできる局所的な合成波で脳を刺激する時間干渉刺激は、まさにこのような刺激を可能にしました。

逆に脳全体に広く加えられる外部振動、脳の機能周波数に合わないないような外部振動では、はっきりとした行動変化を生み出すのは難しいようです。

極低周波の電磁波

生物学的な振動周波数に一致する極低周波の電磁波の照射により、ニューロンや脳波が同調し、行動に変化が生じることが観察されています。

これには怒りや恐怖、幻覚など、脳の直接的な電気刺激でみられるような、はっきりとした行動の変化も含まれます。

ニューロンの同調

イェール大学の研究では、フェレットの大脳皮質に2~4 V/mの弱い電磁波 (交流電界) を加えると、ニューロンが電磁波の周波数に同調して発火することが発見されました。(Fröhlich and McCormick 2010)

それだけでなく、電磁波の周波数に合わせて、ニューロンの発火を加速あるいは減速させることができました。

電磁波オフ。
ニューロンは自発的に発火している。
電磁波オン (0.075 Hz)。
ニューロンの発火が電磁波に同調している。
電磁波オン (0.1 Hz)。
ニューロンの発火が電磁波に同調している。
電磁波オン (0.15 Hz)。
ニューロンの発火が電磁波に同調している。

電磁波がニューロンの固有周波数 (0.1 Hz前後) に近い場合、ニューロンは強い周期的変動を示しました。

脳波の同調

電磁波を照射するとその周波数に脳が同調し、脳波が増幅することが確認されています。

イギリスの研究では、反復TMSの電磁パルスがアルファ周波数で被験者の頭頂葉に印加されました。(Thut et al. 2011)

すると印加周波数と同じ、アルファ帯域の脳波が増幅しました。

ドイツの研究でも、反復TMSの電磁パルスがアルファ周波数で被験者の後頭葉に印加されました。(Zmeykina et al. 2020)

すると印加周波数と同じ、アルファ帯域の脳波が増幅しました。

一方で、周期性のないランダムな電磁パルスを脳に加えてもこのような効果はみられませんでした。 

日本の研究者は、異なる皮質領域が固有の振動周波数を持つと仮説をたて、それを反復TMSを使った実験で検証しました。(Okazaki et al. 2021)

被験者の後頭葉の視覚皮質、あるいは頭頂葉の運動皮質に、シータ周波数 (5 Hz)、アルファ周波数 (11 Hz)、ベータ周波数 (23 Hz) の反復TMSの電磁パルスを加えました。

すると運動皮質ではベータ周波数の電磁波でベータ帯域の脳波が増幅し、視覚皮質ではアルファ周波数の電磁波でアルファ帯域の脳波が増幅しました。

従って、著者の仮説を裏付ける結果が得られたといえます。

行動の変化

睡眠

スペインの神経生理学者ホセ・デルガドは、特定の神経領域に電磁パルスを送ることができる光輪のような装置とヘルメットを発明しました。(MCAULIFFE 1985, Horgan 2005)

装置は動物と人間の両方でテストされ、眠気や興奮、その他の状態を誘発することに成功しました。

電磁パルスを電力線のものと同じ程度の極低周波、つまり約50~60 Hzのガンマ周波数に調節すると、より顕著な効果が得られました。

強度は非常に弱く、埋込み電極を用いてニューロンを発火させるのに必要な強度の数百倍低く、地球の磁場の約50分の1でした (約0.1 μT) 。

誘発された効果は脳同調によるものと考えられました。

実際、これらの微弱な電磁パルスを隔離したカニのニューロンに照射すると、ニューロンが印加されたパルスに同期するように発火速度を変化させることが確認されました。

電磁波照射で眠りに落ちたサル
記憶喪失

カナダの研究グループは、電磁波を側頭葉へ照射したときの認知能力への影響を検証しました。(Persinger and Nolan 1985)

側頭葉の中でも、電磁波は特に海馬と扁桃体へ干渉すると考えられました。

被験者は3分構成の物語を聞いた後、5分後に物語を語り直すよう指示されました。

この課題の実施中に、シータ帯域の5 Hzの電磁波を被験者の側頭葉に照射しました。照射の時間帯は最初の1分間、中間の1分間、最後の1分間のいずれかでした。

すると想起できた物語の内容が大幅に減少し、被験者は記憶喪失の様相を呈しました。

特に最初の1分間に照射された被験者は、思い出せた内容が三分の一に減少しました。

記憶喪失が海馬や扁桃体の電気刺激によって誘発されることが、いくつかの動物実験で確認されています。(6ページ目「抑制」参照)

したがって電磁波によって脳の直接的な電気刺激と同様の効果を得ることができたと言えます。

怒り、恐怖、幻覚

同研究グループは続けて、側頭葉への電磁波照射により誘発される反応を調べました。(Ruttan et al. 1990)

実験では被験者の側頭葉へ0.03~0.1 μTという微弱な電磁波が5分間加えられました。

電磁波の周波数はシータ波の4 Hz, アルファ波の9 Hz, ベータ波の16 Hzのいずれかでした。

これは扁桃体と海馬によって生成される脳波に近似するよう設定されました。

すると主にシータ・アルファ帯域の電磁波で、被験者に怒りや恐怖、悲しみといった感情が誘発されました。

また、前庭感覚 (振動や浮遊感)、動けない状態、離人感、幻視といった異常な体験も誘発されました。

怒りや恐怖の感情や、幻覚が扁桃体や海馬の電気刺激によって生じることはよく知られています。(2ページ目「激怒」、3ページ目「恐怖」参照)

したがって電磁波によって脳の直接的な電気刺激と同様の効果を得ることができたと言えます。

以下は被験者の異常な体験に関する発言例です。

  • 回転する物体:「何か機械的なものがくるくると回っているのが見える……そして何かがそれに触れている」
  • 離人感:「これは現実ではない……何かの中に入り込んでしまう」、「自分の中に何かがいるような気がする」
  • 前庭感覚:「私は空中を飛んでいる」、「胸に振動が伝わっているように感じる」
  • 視覚的な飛行映像:「コウモリが空中を飛んでいる」、「鳥が飛んでいるのが見える」
  • 固有受容覚と筋肉痙攣:「全身がチクチクする」、「目が左右にけいれんしている」、「頭の中に奇妙な波紋が走るのを感じた」
  • 動けない状態:「動けないような気がする」
  • 波動:「波のような音がする」
  • 解離思考:「物語の中にいるような気がして、目が覚めたら虫がいて死んでいた」
  • 色:青紫、黄緑、赤橙の順
  • 閃光:「洞窟にきらめきが見える」
視覚の抑制

網膜がとらえた視覚情報はまず後頭葉の一次視覚野に伝えられますが、この時左右の情報が反転します。

つまり、右の視野の情報は後頭葉の左側に、左の視野の情報は後頭葉の右側に投影されます。

"Human visual pathway" by Miquel Perello Nieto is licensed under CC BY 4.0.

後頭葉に電磁波を照射すると、視覚が妨害されることが示されています。

ドイツのハンブルク大学の研究者は、電磁波を後頭葉へ照射したときの視覚への影響を検証しました。(Sauseng et al. 2009)

被験者の目の前に0.1秒間だけ複数の四角形が表示され、左右いずれかの視野の四角形だけを覚えて、もう片方は無視するよう指示されました。

0.9秒後、再び四角形が2秒間表示され、四角形の色が変わったかどうか答えるように求められました。

視覚記憶テストの概要

課題の実施中に、10 Hzのアルファ周波数あるいは15 Hzのベータ周波数で、反復TMSの電磁パルスが被験者の後頭葉の左右いずれかに加えられました。

するとアルファ周波数の電磁波照射で、照射部位に依存して成績が上下しました。

覚える必要のある視野が投影される、反対側の後頭葉へ電磁波を照射すると、成績が劣化しました。これは電磁波が必要な視野を抑制した結果と言えます。

無視する必要のある視野が投影される、同じ側の後頭葉へ電磁波を照射すると、成績が向上しました。これは電磁波が不必要な視野を抑制した結果と言えます。

一方で、ベータ周波数の電磁波照射では効果がみられませんでした。

したがって、アルファ周波数の抑制的な役割が実証されました。

視覚記憶力の増減

反対側の後頭葉へのアルファ周波数の電磁波照射で視覚記憶力が低下した。一方、同じ側の後頭葉では視覚記憶力が向上した。

イギリスのグラスゴー大学の研究者も、電磁波を後頭葉へ照射したときの視覚への影響を検証しました。(Romei et al. 2010)

被験者は左右いずれかの視野に一瞬だけ出現するドットに反応して、ボタンを押すよう指示されました。

課題の実施中に、5 Hzのシータ周波数、10 Hzのアルファ周波数、20 Hzのベータ周波数のいずれかの反復TMSの電磁パルスが、被験者の後頭葉の左右いずれかに加えられました。

するとアルファ周波数の電磁波は、シータおよびベータ周波数と比べると、視覚を抑制する効果をみせました。

ドットが出現する視野が投影される、反対側の後頭葉へ電磁波を照射すると、正解率が減少しました。これは電磁波が必要な視野を抑制した結果と言えます。

ドットが出現しない視野が投影される、同じ側の後頭葉へ電磁波を照射すると、正解率が向上しました。これは電磁波が不必要な視野を抑制した結果と言えます。

視認性の増減

反対側の後頭葉へのアルファ周波数の電磁波照射で視認性が減少した。一方、同じ側の後頭葉では視認性が向上した。

反応速度の低下

ニューヨーク州立大学アップステート医療センターの研究では、電磁波照射で人間の反応速度が低下することが発見されました。(FRIEDMAN et al. 1967)

被験者は閃光に反応してボタンを押すよう求められました。

課題遂行中に、0.1 Hzあるいは0.2 Hzの電磁波を被験者の頭部全体に加えました。

すると、0.2 Hzの電磁波を被曝した被験者の閃光に対する反応が有意に遅くなりました。

一方で、0.1 Hzではほとんど効果がみられませんでした。

この効果は男性の被験者で顕著でした。

反応速度の低下

0.2 Hzの電磁波被曝により反応速度が低下した。0.1 Hzでは効果はみられなかった。

男性女性

高周波の電磁波 (マイクロ波)

高周波の電磁波の一種であるマイクロ波の照射によってもニューロンや脳波、行動に変化が生じることが確認されています。

この変化を生じさせるためのポイントは、マイクロ波を脳波帯域の極低周波で変調をかけることのようです。

変調無しの連続波のマイクロ波では、ニューロンの活動が抑制されるか何も影響を与えないことが多いです。

ニューロンの活性化

パルス変調マイクロ波

極低周波でパルス変調したマイクロ波を照射すると、ニューロンが活性化することが示されています。

ペンシルベニア州立大学の研究者はネコの頭部にパルス変調マイクロ波を照射すると、ネコの脳幹付近に電気信号が生じることを発見しました。(Frey 1967)

照射は脳波がほとんど観察されなくなった死にかけのネコに対して行われました。

マイクロ波の周波数は12-15 GHzで、12~130 Hzの脳波帯域でパルス変調されました。

強さは30 μW/cm2と体内の温度上昇を引き起こすために必要な値よりも 4桁も低い値でした。

誘発された電気信号は脳の部位ごとで異なりました。視床下核では反応が素早くまた短く、脳幹網様体では反応が遅くより拡散的で長く続きました。

変調周波数によって大きな差はみられませんでした。

12 Hzの変調マイクロ波の照射で視床下核に誘発された電気信号
12 Hzの変調マイクロ波の照射で脳幹網様体に誘発された電気信号

ロシアの研究者は、パルス変調マイクロ波によってカタツムリのニューロンが活性化すること示しました。(Bolshakov and Alekseev 1992)

マイクロ波は周波数が900 MHz、強さがSAR 0.5~4 W/kgで、0.5~110 Hzの極低周波でパルス変調されるか、あるいは変調無しの連続波でした。

パルス変調したマイクロ波をニューロンに照射すると、発火率が急激に上昇し、バーストが出現しました。

一方で連続波のマイクロ波では変化がみられませんでした。

ニューヨーク州立大学ジェネセオ校の研究者は、キンカチョウの頭部にパルス変調マイクロ波を照射すると、脳内のニューロンが活性化することを示しました。(Beason and Semm 2002)

マイクロ波は周波数が900 MHz、強さが100 μW/cm2で、217 Hzでパルス変調がかけられました。これは第二世代の携帯電話が発するマイクロ波に似せて作られました。

ニューロンの活動は頭頂葉、後頭葉、小脳の前部に挿入した電極から取得されました。

すると検査したニューロンの半数以上が活動の変化を示しました。

反応したニューロンのほとんどで平均3.5倍という発火率の増加がみられましたが、いくつかのニューロンでは発火率の低下がみられました。

マイクロ波を極低周波で変調しなかった場合、ニューロン活動の促進も抑制も観察されませんでした。

変調マイクロ波の照射によるニューロン活動の促進
変調マイクロ波の照射によるニューロン活動の抑制
連続波のマイクロ波

変調の無い、連続波のマイクロ波を神経系に照射すると、主にニューロンの活動が抑制されることが示されています。

テンプル大学の研究者は、60 GHzのミリ波を連続波でマウスの後肢に照射して、腓骨神経への影響を調べました。(Alekseev et al. 2009)

するとミリ波の照射中は腓骨神経の活動が抑制され、照射終了後に一時的に活動が増加しました。

ミリ波の強度は160 mW/cm2とかなり強力なもので、数度の温度変化を伴いました。

連続波のマイクロ波の照射によるニューロン活動の抑制

ハンチントン医学研究所では、連続波の60 GHzのミリ波がラットの大脳皮質の切片に1分間照射されました。(Pikov et al. 2010)

すると検査した8個のニューロンのうち、発火率の低い4個はミリ波の照射で活動が抑制されましたが、発火率が高い4個は活動が逆に促進されました。

ミリ波の強さは1 μW/cm2 未満と、安全基準の1000分の1以下の強さでした。

神経活動の促進と抑制

発火率の低い4個はミリ波の照射で活動が抑制されたが、発火率が高い4個は活動が逆に促進された。

脳波の同調

極低周波でパルス変調したマイクロ波を頭部に照射すると、脳が変調周波数に同調し、脳波が増幅することが示されています。

ハンガリーの研究者は、マイクロ波がラットの脳波に及ぼす影響を調べました。(Thuröczy et al. 1994)

実験では、ラットの頭部に連続波、あるいはベータ帯域の16 Hzで振幅変調した、周波数2.45 GHz、強さ8.4 W/kgのマイクロ波が照射されました。

するとベータ帯域で振幅変調されたマイクロ波は、ベータ帯域 (14.5~30 Hz) の脳波を増幅させました。

一方で、連続波のマイクロ波は脳波に影響を与えませんでした。

エストニアの研究者は、マイクロ波が人間の脳波に及ぼす影響を調べました。(Hinrikus et al. 2008)

周波数450 MHz、強さ160 μW/cm2のマイクロ波が被験者の左側頭部に照射されました。

マイクロ波は7、14、21、40、70、217、1000 Hzのいずれかでパルス変調され、シータ・アルファ・ベータの3つの帯域の脳波の変化が調査されました。

シータ波の7 Hzの変調では、シータ帯域の増幅が他の変調に比べて目立ち、アルファ波の増幅もみられました。

ベータ波の14 Hzと21 Hzでの変調では、ベータ帯域の増幅の他、大きなアルファ帯域の増幅がみられました。

それ以上の変調周波数ではアルファ波とベータ波が同じ程度増幅し、1000 Hzでは有意な変化はみられませんでした。

全般的な傾向として、アルファ波が共通して増幅し、そして変調周波数に近い帯域が増幅したと言えます。

行動の変化

けいれん死

米国立神経疾患・失明研究所 (現国立神経疾患・脳卒中研究所) では、マイクロ波を脳幹に照射すると、アカゲサルにけいれん発作が生じ、最終的に死亡することが発見されました。(Bach et al. 1959, Aviation Week 1959)

マイクロ波は周波数が380~395 MHz、強さは64 mW/cm2と高強度であり、主に連続波として、時に500 Hzか1000 Hzで振幅変調して照射されました。

無線アンテナは、生命維持の中枢である脳幹と一直線になるようにアカゲサルの頭部に向けらました。

所長のベイリー博士によると、サルは照射から数秒後に眠気を催しました。1分ほど経つとサルは興奮し、頭を左右に振り始めました。

さらに1分後には、「脳の生命活動の中枢に何か差し迫った障害の、紛れもない兆候が現れました。おそらく脳が電磁波に共鳴していたのでしょう」。

そしてサルは激しいけいれん発作を起こし、数秒後に死亡しました。

被曝により10頭のサルが死亡し、死ぬ前に被曝が止められた別の10頭のサルは、人間のパーキンソン病に似た症状を示しました。

また2頭のサルは四肢麻痺に陥り、2頭は上肢の筋力低下を呈し、数頭は様々な期間にわたる運動失調を示しました。

これらのサルの脳を解剖すると、脳幹や小脳に組織損傷がみとめられました

ベイリー博士は、マイクロ波による脳損傷の可能性をみとめ、これにより「謎の航空機事故」を説明できるかもしれないと推測しました。

この他、眼瞼下垂、瞳孔散大、眼振、紅潮、流涎、流涙などの症状も生じました。

また1匹のサルでは、送信機を交互にオンオフすることで、20秒周期で興奮とくつろぎを繰り返すことができ、サルは糸の先で操られる人形のように反応しました。

以上の症状は脳幹への直接的な電気刺激によって生じる症状に似ていると考えられました。

脳幹の直接的な電気刺激で心停止、呼吸停止、また様々な生理現象が起きる事は実際に確認されています。(7ページ目「運動」参照)

しかし今回の実験では組織損傷が確認されていることから、一般的な埋め込み電極を使った、刺激自体には損傷を伴わない電気刺激とは原理が異なるものと考えられます。

心停止

ペンシルベニア州立大学の研究者はマイクロ波によってカエルの心臓を停止させることができることを示しました。(Frey and Seifert 1968)

実験はカエルの首を切り落とし、心臓を取り出すことから始まりました。

分離された心臓は、約1拍/秒のゆっくりと減少する速度で鼓動し、その速度は少なくとも 20分間は安定していました。

この安定して鼓動する心臓に、1.425 GHzのパルス変調したマイクロ波を10秒間照射しました。強さは0.6 μW/cm2と非常に弱く、携帯電話からもこの程度の電磁波は放射されます。

マイクロ波のパルスは心拍に同期するように設計され、P波のピークの200ミリ秒後に照射されました。

すると心拍数が上昇し、半数の症例で不整脈が発生しました。

そして驚くべきことに、不整脈の後に心臓が停止することがありました。

生きたラットの脳の島皮質に、心拍に同期した電気刺激を加えると、同様に心拍数が上昇し、不整脈が生じ、ついには心停止して死亡したことが観察されています。(7ページ目「運動」参照)

つまり心臓や脳に心拍に同期してパルス変調したマイクロ波を照射すると、人間や動物が死亡する可能性があります。

これは秘匿性に優れた殺傷兵器としてマイクロ波が利用される可能性を示すものであり、実際、この研究はアメリカ海軍調査研究所からの資金援助を受けていました。

記憶力の低下

携帯電話はパルス変調されたマイクロ波を放射し、これには脳波帯域の極低周波成分が含まれています。

例えば第二世代の携帯電話では、5.6, 5.86, 6.8, 8 Hzという、シータ帯域の極低周波成分がもっとも強く検出されています。(Misek et al. 2023)

フィンランドの研究者は、第二世代の携帯電話の電磁波を側頭葉に被曝すると、作業記憶が大幅に低下することを示しました。(Krause et al. 2003)

被験者は4つの動詞を音声で提示され、2秒後にさらに音声で提示された動詞が既出かどうか判断するよう求められました。

被験者の頭部の左側頭部に携帯電話を備え付け、試験中に携帯電話をオンにしたグループとオフにしたグループで誤答率が比較されました。

すると誤答率がオフのグループが6.3%だったのに対し、オンのグループは19.1%と、3倍以上に増加しました。

記憶喪失が側頭葉にある海馬や扁桃体の電気刺激によって誘発されることが、いくつかの動物実験で確認されています。(6ページ目「抑制」参照)

したがって電磁波によって脳の直接的な電気刺激と似たような効果を得ることができたと言えます。

睡眠の妨害と促進

イギリスの研究者は、第二世代の携帯電話の電磁波被曝で、入眠が妨げられることを示しました。(Hung et al. 2007)

被験者は頭部の右側頭部に携帯電話を備え付けられ、睡眠中に「トーク」、「リッスン」、「スタンバイ」のいずれかのモードで電磁波を被曝しました。

するとトークモードの電磁波の被曝で、入眠までの所要時間が24分から49分と、2倍以上に増加しました。

また、前頭部において1-4 Hzのデルタ波のパワーの減少も観察されました。

一方でスイスの研究者は、携帯電話のものに似せた電磁波が入眠を促進することを示しました。(Borbély et al. 1999)

実験では900 MHzの第二世代の携帯電話の電磁波を模したマイクロ波を被験者の左側頭部に照射して、睡眠への影響を調べました。

マイクロ波は第二世代の携帯電話同様に、2、8、217、1736 Hzの周波数成分を含むようにパルス変調されました。

すると入眠までの所要時間が18分から12分までに短縮しました。

また、睡眠の初期に10 Hzおよび13.5 Hzのアルファ波の脳波の増幅が観察されました。

時間干渉刺激 (電流刺激)

頭部に設置した電極から電流を脳に流すことで脳の活動に影響を与えることができます。

最近開発された時間干渉刺激という方式は、2つの電流を交差させることで、脳深部にある特定の脳部位を選択的に刺激することを可能にしました。

電流刺激 (TES)

経頭蓋電気刺激 (Transcranial Electrical Stimulation : TES) は、微弱な電流を頭蓋を通して脳内に流し、ニューロンの活動を調節する技術です。

TESでは頭皮に置いた2つの電極の間に、約 1-2 mAの低強度の電流を流します。

TESの概要図

TESは健康な人の認知能力を高めると言われており、またうつ病などの病気の治療に使用されています。(Fertonani and Miniussi 2016)

さまざまな電流波形で刺激が可能で、主な形式は直流刺激、交流刺激、およびランダムノイズ刺激の3つです。

TESの3つの形式
(Saiote et al. 2013を改変)

これらの形式の電流は、ニューロンの膜電位を変化させます。活動電位を誘発するには不十分ですが、発火率に変化をもたらすには十分です。

時間干渉刺激 (TI刺激)

脳深部の特定部位の刺激

マサチューセッツ工科大学の研究グループは、時間干渉刺激 (Temporal Interference Stimulation:TI刺激) と呼ばれるTESの新しい手法を開発しました。(Grossman et al. 2017)

これは周波数がわずかに異なる電流を別々の電極から加えることで、2つの電流の交差点にできる合成波によってニューロンを活性化させるというものです。

実験では、マウスの頭皮に2つの電極を設置し、海馬を標的に2000 Hzと2010 Hzの電流を加えました。

これにより差分周波数10 Hzの包絡線を有する合成波が生成されます。

すると、表面の新皮質領域は活性化させずに、脳深部にある海馬のみを活性化させることができました。

ニューロンは2000 Hz、2010 Hzの高周波の振動には追従しなかったのですが、差分周波数10 Hzの低周波の振動には追従したのです。

これにより電極を埋め込むことなしに、脳深部にある特定部位に限定した電気刺激が可能になりました。

時間干渉刺激の概要図
ニューロンの同調

さらに実験では、ニューロンが2つの電流の差分周波数に同期して発火することも示されました。

運動皮質の前肢の領域を標的に、2000 Hzの電流と、2001、2005、2010 Hzのいずれかの周波数の電流がマウスの頭部に加えられました。

するとマウスの前肢が、差分周波数 1 Hz、5 Hz、10 Hzに同期して動きました。

差分周波数に同調してマウスの前肢が動いている。

フランスの研究者も同様に、時間干渉刺激においてニューロンが2つの電流の差分周波数に同期して発火することを示しました。(Botzanowski et al. 2022)

実験では、マウスの坐骨神経を標的に、搬送周波数3000 Hz、差分周波数0.5~5 Hzのデルタ周波数で時間干渉刺激しました。

するとマウスの後肢が差分周波数に同期して動きました。

差分周波数に同期してマウスの後肢が動いている。

時間干渉刺激は多くの研究者を触発し、様々な脳領域を対象とした研究が実施されています。

記憶力の向上、感情の変化

イギリスの研究者は、人間の海馬を時間干渉刺激すると、刺激部位が活性化して記憶能力が幾分か向上することを示しました。(Violante et al. 2023)

ヒトの海馬を標的にした時間干渉刺激

被験者はイラストの顔と名前のセットを16枚、2秒間ずつ連続で呈示され、後ほど顔から名前を思い出すよう求められました。

課題の実施中、被験者の海馬を標的に、搬送周波数2,000 Hz、差分周波数 5 Hzのシータ周波数で時間干渉刺激が行われました。

5 Hzというのはエピソード記憶において海馬がシータ帯域で振動することに基いています。

すると刺激は海馬を活性化し、被験者の記憶力が幾分か向上しました。

しかし副作用として、不安感、吐き気、不快感など、偽刺激群ではみられなかった感情の変化が生じました。

海馬の電気刺激によって恐怖反応が生じることが確認されています。(3ページ目「恐怖」参照)

したがって時間干渉刺激によって脳の直接的な電気刺激と似たような効果を得ることができたと言えます。

運動学習の改善

ドイツの研究者は、人間の線条体を時間干渉刺激すると、刺激部位が活性化し、さらに運動学習が改善されたことを示しました。(Wessel et al. 2023)

ヒトの線条体を標的にした時間干渉刺激

被験者は画面上に表示された数字の並びを、できるだけ速く、できるだけ正確に、数字に対応した非利き手の5本の指 (数字に対応) で再現するよう求められました。

課題の実施中に、被験者の線条体を標的に、搬送周波数2 kHz, 差分周波数5 Hzのシータ周波数で時間干渉刺激が行われました。

シータ波は、学習時に海馬や大脳皮質、大脳基底核などで出現し、ニューロンのシナプス形成を促すことが知られています。

すると、線条体および関連する運動ネットワークの活動が増加しました。

さらに運動の学習能力が低下している高齢者において、運動学習の成績が改善されました。

一方で若年者においてはそのような効果はみられませんでした。

運動学習の改善

時間干渉刺激は高齢者の運動学習を改善した。

高齢者若年者
眼球運動

中国の研究者は、マウスの脳深部にある中脳上丘を標的に、搬送周波数2000 Hz、差分周波数1 -5 Hzで時間干渉刺激しました。(Song et al. 2021)

するとマウスに衝動性眼球運動が誘発されました。

さらに眼球が差分周波数1 Hz、2 Hz、5 Hzに同調して動きました。

衝動性眼球運動の振幅の周波数分析。おおむね差分周波数 (1, 2, 5 Hz) に一致して眼球が振動している。
てんかん発作

フランスの研究者は、ラットの海馬を標的に、搬送周波数1200 Hz、差分周波数50 Hzのガンマ周波数で時間干渉刺激しました。(Missey et al. 2021)

すると、すべてのマウスがてんかん発作を起こしました。

時間干渉刺激で誘発された発作の振る舞いは、従来から知られている、海馬の電気刺激で誘発されるものと同じでした。

したがって時間干渉刺激によって脳の直接的な電気刺激と同様の効果を得ることができたと言えます。

呼吸の回復

フロリダ大学の研究者は、ラットの横隔膜運動ニューロンを時間干渉刺激すると、呼吸不全に陥ったラットを回復できることを示しました。(Sunshine et al. 2021)

実験ではまず、ラットにフェンタニルを過剰投与して、無呼吸状態を誘発しました。

続いてラットの脊椎の横隔膜運動ニューロンを標的に、搬送周波数5000 Hz、差分周波数1 Hzで時間干渉刺激しました。

すると、ラットの横隔膜が差分周波数1 Hzに同調し、ラットの呼吸が回復しました。

回復した呼吸は、時間干渉刺激後も持続しました。

フェンタニルの過剰投与でラットに無呼吸が生じたが、時間干渉刺激によって回復させることができた。時間干渉刺激後も回復した呼吸は持続した。

脳幹の電気刺激で呼吸同調や呼吸停止を誘発できることが示されています。(7ページ目「運動」参照)

したがって時間干渉刺激によって脳の直接的な電気刺激と似たような効果を得ることができたと言えます。

マイクロ波ビーム

低周波の電磁波とは対照的に、高周波の電磁波の一種であるマイクロ波には、空間的に集束できるという明確な利点があります。

近年の信号処理技術の発展により、マイクロ波を特定の方向にビームとして照射できるようになりました。

これは通信技術や軍事技術として活用されていますが、最近は神経刺激技術としての開発も進んでいます。

脳表面への刺激

韓国の研究者は、マイクロ波ビームの照射によってマウスの脳活動が促進あるいは抑制されることを示しました。(Seo et al. 2018, Oh et al. 2021)

研究者はマイクロ波集束用の小型アンテナを開発し、1 mm未満の焦点性を確保し、表面領域 1 mmの深さまで刺激できるようにしました。

これを用いて、1 Hzあるいは50 Hzでパルス変調した、6.5 GHzのマイクロ波ビームをマウスの脳に照射しました。

海馬に電極を挿してその活動を監視したところ、1 Hzの変調では活動が促進され、50 Hzの変調では逆に活動が抑制されたことが確認されました。

脳深部への刺激

マイクロ波ビームを使って脳深部の特定部位のみを活性化させるには、複数のビームを照射してその交差点にエネルギーを集中させる方法が効果的です。

ライス大学の研究者は、時間干渉刺激の成功に触発され、電流の代わりにマイクロ波ビームを使った脳深部の選択的な標的への刺激法を開発しました。(Ahsan et al. 2022)

マイクロ波ビームは強度と焦点性の双方においてより優れていると考えられました。

時間干渉刺激の原理は、ニューロンは2つの波の高周波の振動には反応しないが、波の交差点で形成される合成波の低周波の振動には反応する、というものです。

わずかに周波数が異なる2つのマイクロ波ビームを重ね合わせると、交差点で合成波が生成され、その包絡線の周波数は2つのビームの差分周波数となります。

マイクロ波ビームによる時間干渉刺激の概要図

この研究では1.5、2.5、3.5 GHzの搬送周波数と100 Hzの差分周波数で、3Dモデルを使ったシミュレーションを行いました。

すると電流を使った刺激と同等の電界強度と、はるかに優れた焦点性で脳の中心部を刺激できることがわかりました。

いくつかの脳深部の部位における電界強度の分布 (3.5 GHz)

周波数が高いほど焦点が小さくなる分、電界強度が落ちました。

3.5 GHzの周波数では、電界強度0.3 V/mという神経を活性化するのに十分な強さ (※) で、1.2~1.4 cmの焦点性が達成されました。

0.2~0.3 V/mの電界強度でサルの海馬のニューロンのスパイクが同調した。(Krause et al. 2019)

電流を使った刺激では最適化しても0.3 V/mの電界強度で焦点は直径12 cm程度にもなるので、焦点性が大幅に改善されたと言えます。(Dmochowski et al. 2011)

他にもいくつかの研究所でマイクロ波ビームによる神経刺激が研究されていますが、今の所すべてシミュレーションの段階に留まっているようです。

ユタ大学の研究者は、複数のマイクロ波ビームを脳内の特定の標的に集中させることで、無線で脳深部を刺激できることを示しました。(Lee et al. 2024)

半球状のアレイアンテナ

シミュレーションにおいて、アレイアンテナのエレメントを32個、半球状に沿って設置し、8 GHzのマイクロ波ビームを脳内に照射しました。

すると人間の頭部の任意の地点にビームを収束できることが示されました。

人間の脳モデルにおける電界の分布

イランの研究者も、複数のマイクロ波ビームを脳内の特定の標的に集中させることで、無線で脳深部を刺激できることを示しました。(Madannejad et al. 2020)

シミュレーションにおいて、複数のアレイアンテナが頭部の周囲に円筒状に設置し、1 GHzのマイクロ波ビームを脳内の中心部に向かって照射しました。

すると電磁力が脳の10センチメートルの深さにある場所に集束できることが示されました。

脳ファントムを用いた比吸収率 (SAR) の分布

黎明期における取り組み

マイクロ波を集束して脳を活性化させようというというアイデア自体は、1960年代にはすでにありました。

1968年、複数の研究者が電磁波と超音波を組み合わせれば、選択的な脳深部の刺激が理論上は可能であると主張しました。(Schuder and Gold 1974)

1969年、スタンフォード研究所 (現SRIインターナショナル) のローレンス・ピネオ博士は、マイクロ波を使った、電極を埋め込まないで脳深部の刺激を実現するための方法をいくつか提案しました。(Pinneo et al. 1971)

その一つは、周波数がわずかに異なる2つのマイクロ波を照射して、交差点にできる合成波で脳を刺激するというもので、これは実質上、上述した時間干渉刺激と同じ方式です。

博士は脳深部のニューロンを活性化させるのに十分なエネルギーを送達できないので無理だろう、という結論に至っています。

ただしこれは机上の計算に過ぎず、実際に動物実験などで確認したわけではありません。

微弱な電磁波でも同調原理によって脳活動に影響を与えられることは、ここまで見てきた通り、実験的に証明されています。

博士の他の研究にはDARPAからの委託を受けて実施されたものもあることから (※)、この研究は次に述べるDARPAのパンドラ計画の一環だったのかもしれません。

思考読み取り技術の開発で、博士は7つのコマンド「右、左、上、下、高速、低速、停止」を脳波から読み取ることに1975年には成功していた。(Pinneo et al. 1975)

マインドコントロール兵器

ここまで電磁波によって脳機能に影響を与えられることをみてきましたが、それを軍事的に応用した、マインドコントロール兵器の開発が進んでいるようです。

モスクワシグナル

1953年から1979年4月まで、モスクワの10階建てのアメリカ大使館は、マイクロ波による攻撃を受けました。(Steneck 1987, Martínez 2019)

この信号はモスクワシグナルと呼ばれるようになり、大使館内で約0.1~24 µW/cm²という低強度で、ギガヘルツ帯の高周波の変調信号で、1日9時間照射されたと推定されています。

その指向性と変調特性から、モスクワシグナルは米国人職員に向けて意図的に照射されていたのは明かでした。

この出来事が明るみになったのは1976年の初めになってからで、米国政府はそれまでこのことを一般の大使館員には知らせませんでした。

1967年に実施された遺伝子検査では、被曝群では37人のうち20人の染色体に異常が見つかり、無被曝群では7人のうち2人に異常が見られました。 (染色体異常が1.8倍)

1968年には大使館職員を対象に行動への影響に関するスクリーニングが行われましたが、その結果は公表されませんでした。

1976年、『タイム』誌は、大使館員の多くが深刻な健康問題を抱えてアメリカに帰国し、2人の大使ががんで死亡、3人目は白血病を患っていたと報じました。

同年に開始された疫学研究では、白血病の死亡数の3倍の増加、乳がんの死亡数の4倍の増加がみられました。

同研究で実施された健康アンケートでは、うつ病、易怒性 (イライラ)、集中力の低下、記憶力の低下、目の疾患、乾癬、貧血など、電磁波過敏症の症状に一致する項目が増加しました。

アメリカの諜報機関は、ソ連がこれらの電波を外交官をマインドコントロールするためではなく、建物の壁に設置された盗聴装置を起動するために使用したと主張しました。

DARPAのパンドラ計画

国防高等研究計画局 (DARPA) は、マイクロ波ビームを集束させて相手を混乱させる技術を開発しようとした長い歴史があります。(Rose 2006)

1965年、DARPAは低出力マイクロ波の生物学的および行動的な影響を調査するための、パンドラ計画と呼ばれる秘密研究プログラムを開始しました。(Davison 2009)

ミシガン大学の科学史教授のステネク氏は、1987年の著作「マイクロ波ディベート (The Microwave Debate)」で、この計画について詳しく解説しています。(Steneck 1987)

パンドラ計画はモスクワシグナルの調査の一環として始まりました。

この計画は遠隔マインドコントロールの研究プログラムであったとの疑いがかけられており、DARPA局長は弁明に追われました。

1976年、局長はフォード大統領に宛てられた電報に返信し、「パンドラ実験はマイクロ波を監視ツールや兵器構想として利用することを目的にしたものではない」と送信者に保証しました。

1年後、局長は議会の質問に対する書面回答でこの点についてさらに詳しく述べました。

「当局は、国防総省の管轄下で現在進行中または過去に行われた、機密指定の有無を問わず、マイクロ波放射を『マインドコントロール』として知られる手法の形態として利用する可能性を調査した研究プロジェクトについて、一切把握していない。」

これらのいずれの主張も歴史的に正確ではありませんでした。

パンドラが開始された際、DARPAの関係者の一部は明らかに武器技術とマインドコントロールを念頭に置いていました。

当時の研究者たちは、脳への直接的な電気刺激によって行動を変化させることができることをすでに実証していました。(この記事の2ページ目以降参照)

問題は、マイクロ波が非常に低強度であっても同様の効果を持つ可能性があるかどうかでした。

これがパンドラ計画が当初探求しようとしたものです――「入念に構築されたマイクロ波信号によって、心を操作することができるか?」

パンドラは多数のプロジェクトを擁する数百万ドル規模の研究プログラムでした。

主な研究は、陸軍のウォルター・リード研究所に設立されたマイクロ波施設で行われました。

ここではチンパンジーを対象にした模擬モスクワシグナルの被曝実験が行われました。人間を対象とした実験も計画されましたが、実際に行われたかどうかは不明です。

この研究では、目立った生体効果は見出されませんでした。その他の研究も、問題の解明にほとんど役立ちませんでした。あらゆる点で曖昧な結果が出ました。

そしてパンドラ計画は1969年に中止されました。しかし、パンドラ計画の公式発表を懐疑的に見る向きもあります。

ニューヨーカー誌の記者で科学調査ジャーナリストのポール・ブロデューア氏は、パンドラ計画が中止されたのは、秘匿すべき重大な生物学的影響を発見したためだと示唆しました。

伝えられるところによると、この研究プログラムは兵器への応用を追求し、低出力のマイクロ波が脳機能に干渉する能力を実証しました。(Davison 2009)

陸軍のウォルター・リード研究所で行われた実験結果を示すと思われる資料には、「行動パフォーマンスの低下」、「発作」、「脳機能の全般的な改変」、「血流量の30~100%増加」、および「致死性」との記載がみられます。(Bushnell 2001)

米空軍の非致死性兵器

1997年、U.S.Newsは米軍の非致死性兵器の開発に関して、70人以上の専門家にインタビューを行い、生物医学および工学分野の文書を徹底的に調査した結果を報じました。(U.S. News 1997)

2009年、赤十字国際委員会の国際法・政策部武器課の上級科学・政策顧問であるニール・デイビソン博士は、著作「『非致死性』兵器」を出版し、米政府機関が開発・保有するマイクロ波兵器や音響兵器について網羅的に解説しました。(Davison 2009)

これらの情報源は、アメリカの政府機関がマインドコントロールに関心を示し、それを実現するためのシステムを開発・運用をしてきたこと、そしてその主体が米空軍にあることを示唆しています。

1982年の空軍報告書

1982年に米空軍は、2000年以降に開発・運用が予定されている空軍航空システムのために、解決が必要なバイオテクノロジーの研究課題を報告書にまとめました。(Southwest Research Institute 1982)

この研究課題には、マイクロ波含む高周波電磁波の生体効果も含まれていました。

うち「高周波電磁波による強制妨害現象」と題された項目があり、目的は「高周波電磁波が人間の中枢神経系の機能を妨害、低下、または命令する能力を定義する」とされています。

その方法論において、空軍は電磁波に遠隔マインドコントロールする能力があることを実質上認めています。

「現在利用可能なデータは、特別に生成された高周波放射線の場が、強力で革新的な対人の軍事的な脅威をもたらす可能性があることを予測する。」

「電気ショック療法、高周波電磁波の実験、そして脳が電気的に媒介される器官であるという理解の深まりは、印加された電磁波が意図的な行動を阻害し、そのような行動を命令または探知する能力を持つ可能性が非常に高いことを示唆している。」

また、電磁波のステルス殺人兵器として用途も示唆されています。

「さらに、心筋に約100ミリアンペアの電流が流れると、心停止や死に至る可能性があり、これもまた光速兵器としての効果を示唆している。」

「高速走査型の高周波電磁波システムは、広範囲にわたって効果的な気絶または殺害能力を提供する可能性がある。」

さらに、電磁波を生物兵器と併用することで、特定集団のみを生物兵器に感作させることも可能であろうと、推察しています。

「比較的低レベルの高周波電磁波を使用することで、大規模な軍事集団を、無照射集団では免疫があるような、極めて微量な生物兵器または化学兵器に感作できる可能性がある。」

ブルックス空軍研究所

空軍のマイクロ波に関する研究は、主にテキサス州のブルックス空軍研究所で継続的に行われていました。(Davison 2009, U.S. News 1997)

1968年、同研究所ではレーダーシステムの安全性を調査するため、無線周波数、マイクロ波、ミリ波の生体影響に関する研究プログラムが開始されました。

このプログラムは長年にわたり拡大し、世界有数の専門研究拠点の一つとなりました。

1997年の予算文書には、2003年までに1億ドル以上を投じて、「空軍の安全保障、平和維持活動、および戦闘活動のために、電磁放射線の非致死的な生物学的効果を利用する」予定とありました。

2002年にこのプログラムを要約した論文から、この研究所では電磁波の生体に及ぼす効果が極めて詳細かつ広範囲に渡って調査されていることがわかります。

「ブルックス空軍研究所施設では、マイクロ波、ミリ波、高出力マイクロ波、超広帯域放射線への被曝を含む、広範囲の高周波電磁波 (無線周波数の放射線) の被曝パラメータが研究されており、パルス波と連続波の両方、急性、慢性、反復被曝が含まれる。」

「研究は、細胞内小器官から細胞、ネズミ、ヤギ、サル、ヒトに至るまで、生物学的組織レベルで実施されている。研究対象となる生物学的影響には、生化学的、遺伝学的、神経学的、生理学的、行動学的、認知的影響が含まれる。」

米空軍の「制御効果」

2004年に、空軍の科学・技術委員会は、装備、通信、および人間に対する「制御効果 (Controlled Effects)」という概念を定義しました。(Davison 2009)

人間の制御効果について、非致死性の力によって個人の思考を改変し行動を操作するとあり、米空軍が遠隔マインドコントロールの実現に大きな関心を抱いていることが読み取れます。

「対人の制御効果の能力については、S&T (科学・技術) 委員会は、軍事的に有用な範囲から非致死性の武力を個人に向け、特定の敵に我々の要求に応じて考えさせたり行動させたりする可能性を検討した。非致死性の武力を用いることで、人員に物理的な影響を与えたり、無力化したりすることが可能になる。高度な技術により、戦闘員は圧力や温度の変化といった物理的な感覚を遠隔的に作り出すことができるようになる。この技術の現在の例としては、アクティブ・ディナイアルがある。……人間の脳と神経系を研究し、モデル化することで、人員に精神的に影響を与えたり、混乱させたりすることもできる。」

秘匿される電磁波の研究

1980年から1983年にかけて、エルドン・バードという男性が海兵隊の非致死性の電磁兵器プロジェクトを率いていました。(U.S. News 1997)

「私たちは脳内の電気的活動と、それに影響を与える方法を研究していました。」

彼は動物、そして自分自身を使った実験を行い、脳波が外部から受ける波と同期するかどうかを調べました。

また彼は、極低周波の電磁波を用いることで、脳に行動を制御する化学物質を放出させられることを発見しました。

「私たちは動物を昏睡状態にすることができました。」

彼は、磁場を用いてラットの特定の脳細胞にヒスタミンを放出させる小規模なプロジェクトも手掛けました。

人間の場合、これは即座にインフルエンザのような症状を引き起こし、吐き気を誘発します。

「これらの磁場は非常に弱く、検知不可能でした。」「その効果は致死的ではなく、可逆的でした。一時的に人を無力化することができました。」

バード氏は、自身の研究は「うまくいかない限り」機密扱いにはならないと伝えられたと述べました。

彼は自分の研究はうまくいったため「闇に消えた」と推測しました。

他の科学者たちも、電磁波に関する研究が成功すると、最高機密扱いになったという同様の話をしました。

懸念する学者たち

このような極秘裏に進められている新兵器の開発に、倫理学者からは厳しい警告が出されています。(U.S. News 1997)

戦争における銃弾や爆弾の使用に関する条約や協定がありますが、非致死性兵器の使用を規制する条約は現在の所、存在しません。

そして、それらを長期的に被曝した人々に何が起こるかは、誰にもわかりません。

医療研究者は、治療のための電磁波の研究が、兵器開発に利用されるのではないかと懸念しました。

実際、軍は研究情報を得るために、定期的に国立衛生研究所に連絡を取っていました。

「DARPAは数年ごとに私たちのところに来て、遠隔から中枢神経系を無力化する方法があるかどうかを調べている」と、国立衛生研究所の神経補綴プロジェクトの責任者は語りました。

米空軍は2015年までにマイクロ波兵器を、そしてそれより早く他の非致死性兵器を保有すると予想しています。

「それが実現すれば、国民の激しい反発が起こるだろう」と、米陸軍戦争大学の国家安全保障問題の教授は警告しました。

1993年のソマリアのモガディシュの戦いでは、補佐的なレーザーの対人使用が確認されました。それ以来、国際赤十字とヒューマン・ライツ・ウォッチは、対人レーザー兵器の使用に反対し続けています。

国際赤十字のデイビソン博士は、脳機能に干渉する兵器の研究は非致死性兵器の開発という旗印の下で進められていると指摘しました。(Davison 2009)

そして、政府がマイクロ波を使って遠隔マインドコントロールしているという陰謀論が現実になりつつあると警告しました。

最近のマイクロ波攻撃の事例

ハバナ症候群

2016年後半、キューバのハバナにある米国大使館職員が、原因不明の異常な症状・兆候を申告し始めました。(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine 2020)

国務省から依頼を受けて、米国科学アカデミーが委員会を結成して調査にあたりました。

最も特徴的な症状・兆候は、突然聞こえる大きな音、頭部の強い圧迫感や振動感、耳の痛み、または頭部全体に広がる痛みでした。

ほとんどの人は、音やその他の感覚が特定の方向から発生しているように感じ、特定の物理的場所にいるときにのみ知覚されると申告しました。

また、突然の耳鳴り、難聴、めまい、歩行の不安定さ、視覚障害を申告した人もいました。

中国広州の米国領事館に所属する他の職員も、翌年から同様の症状・兆候をさまざまな程度で申告しました。

委員会は、一連の症状・兆候が、パルス変調した高周波の指向性エネルギーの効果と一致するものと判断しました。

中国軍からインド軍への使用

2020年11月、タイムズ紙は中国軍はヒマラヤでの数か月に及ぶ国境睨み合いの際にマイクロ波兵器を使用してインド軍を撤退させたことを報じました。(The Times 2020)

北京の人民大学の国際関係学の教授によると、中国軍はインド軍が占領していた2つの戦略的な丘の頂上を「電子レンジ」に変え、インド軍を撤退させ、従来の銃撃の応酬なしに陣地を奪還しました。

教授は、中国軍が丘の麓から兵器を発射して「山頂を電子レンジに変えた」と述べました。

さらに「15分で、丘の頂上を占拠していた人々は全員嘔吐し始めた」「彼らは立ち上がることができず、逃げた。こうして我々は地上を奪還したのだ。」と続けました。

米国は10年前、アクティブ・ディナイアル・システムと呼ばれる独自の車載型マイクロ波兵器をアフガニスタンに配備しました。しかし戦闘には使用されず撤退したと報じられています。

今回の事件は敵軍に対する初のマイクロ波兵器の使用である可能性があります。

超音波

超音波は人間の耳には聞こえない20KHz以上の周波数の音響波で、ミリ単位で脳内に誘導・集束させることが可能です。 (Naor et al. 2016)

超音波による神経系の活性化は1920年代にはすでに実験的に観察されてしました。

2000年代に入ってから超音波による神経調節の研究が活発に行われています。

アリゾナ州立大学の研究者は、組織に損傷を与えない程度の低強度の超音波でニューロンを活性化できることを示しました。(Tyler et al. 2008)

マウスの海馬切片に10 Hzでパルス変調した23 mW/cm2という低強度の超音波を照射すると、ニューロンが発火しました。

この超音波をラットの脳の運動皮質に照射すると、ラットの身体を動かすことができました。(Tufail et al. 2010)

超音波はいくつかの筋肉群をほぼ同時に活性化し、尾、前肢、ひげが同じタイミングでけいれんしました

刺激部位を数ミリずらすと別の筋肉群の活動が誘発されましたが、特定の体部位の限定的な活性化は達成できませんでした。

ハーバード大学の研究者は超音波の集束技術を活用して、脳の特定部位の選択的な活性化に成功しました。(Yoo et al. 2011)

ウサギの運動皮質に10 Hzでパルス変調した690 kHzの集束超音波を照射すると、ウサギの前肢だけを動かすことができました。

集束超音波をウサギの運動皮質に照射すると前肢が動いた (矢印)。

ウサギの脳活動を調べたところ、運動皮質の標的領域が選択的に活性化していることが確認されました。

集束超音波によって運動皮質の標的領域が選択的に活性化した。

ワシントン大学の研究者は、周波数が異なる2つの超音波を照射し、その交差点で形成される合成波で神経を活性化する技術を開発しました。(Mehić et al. 2014)

実験では、1.75 MHzと2.25 MHzの2つの超音波を重ね合わせ、500 kHzの包絡線を有する2 MHzの合成波を生成しました。

集束超音波の生成器と合成波の概要

運動野の存在する、マウスの頭頂葉にこの集束超音波を加えると、照射部位に応じて、前肢、後肢、ひげにそれぞれ運動反応を誘発することができました。

頭頂葉への超音波刺激で生じた運動

周波数の異なる2つの波の交差点でできる合成波で神経を活性化するという点で、これは時間干渉刺激と同じ方式です。

超音波は、霊長類の大きな脳の深部における活動を調節できることが確認されています。

イギリスの研究者はアカゲザルの脳深部にある扁桃体と前帯状皮質を標的に、1 Hzでパルス変調した250 kHzの超音波を40秒間照射しました。(Folloni et al. 2019)

計算された音響強度の分布

すると標的領域の、他の脳領域との機能的な結合が、照射後数十分にわたって減少しました。つまり、超音波によって標的領域の正常な脳活動が阻害されました。

脳の直接的な電気刺激

脳の電気刺激の歴史は古く、19世紀初頭までさかのぼります。(Sironi 2011)

1804年、イタリアの物理学者が斬首された囚人の大脳皮質に電気刺激を与えてしかめっ面を誘発したのが初めての事例です。

それから散発的に脳電気刺激の実験がいくつか行われましたが、20世紀に入るまで大きな進展はありませんでした。

1930年代、アメリカ系カナダ人の脳神経外科医ワイルダー・ペンフィールド博士は電気刺激による人間の感覚皮質と運動皮質の機能マッピングを行い、世界で初めて 6皮質ホムンクルスを作成しました。

同じく1930年代、スイス人の生理学者ヴァルター・ヘス博士はネコを用いて間脳の機能マッピングを始め、激怒や恐怖といった感情が脳深部の電気刺激で誘発できることを発見しました。

1950年代に入ると、脳の電気刺激の研究が盛んに行われるようになりました。

これらの研究は、脳の特定部位を刺激することで、刺激部位に応じて極めて多彩な感情や行動の変化を誘発できることを明らかにしています。

悪用すればマインドコントロールにも使えるという可能性を確かに示すものです。

次のページからは人間や動物を使った脳の直接的な電気刺激の実験、特に劇的な効果を示す脳深部を対象にした実験を掘り下げて紹介します。

石塚 拓磨

石塚 拓磨

北海道函館市在住。大学では情報工学を専攻し、エンジニアとして10年以上の経験があります。
このサイトを通じて少しでも多くの人が電磁波の危険性について気づいていただければ幸いです。

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